-これまでにも何度か宇部経で取材をさせて頂きまして、その節は有難うございました。その後いかがですか。順調ですか?
おかげさまで順調です。今は工場をフル稼働させている状況ですね。
-こちらの菌床工場(宇部テクノパーク)ではどれぐらいの量を作っているのですか?
年間に約15万菌床を出荷しています。50万菌床ぐらいの需要があるので、供給がとても追いつかない状況ですね。
-それはすごいですね。今回のインタビューは、御社の立ち上げからこれまで、そしてこれからの展開などをお聞きしたいと思っています。よろしくお願いします。
はい。よろしくお願いします。
-会社の沿革を拝見すると、平成21年にキクラゲ栽培事業に着目して個人で視察・研修をしたとありますが、キクラゲに着目したきっかけは何だったのですか?
農業に興味を持っていた時に、ホクトのキノコが流行っているのを見て「キノコって儲かるんじゃないかな」と思ったんですよ。それで、ホクトさんや雪国まいたけさんなどの大手がまだ手掛けていないマイナーなキノコが何かないかと調べていくうちにキクラゲに行きついたんです。
キクラゲって名前は聞いたことあるし食べたこともあるけど、使い方があまり知られてなくて、しかも国内でほとんど生産されていないんですよね。
-なるほど。ところで近安社長はサンアローを起業する前はどんなことをされていたのですか?
30歳まではアパレルメーカーで洋服のデザインを手掛けていました。私は長男で、実家が土木建築業をやっていたので「30歳過ぎたら帰ってこい」と親父に言われ、それから宇部に戻って約7年ぐらいは土木をやったのですが、業界が先細りしていくのが見えていましたし、ちょうど職人さんたちが定年退職を迎えるというタイミングもあったので事業承継はしませんでした。
-家業を継ぐつもりで戻ってきたけども、継ぐことはしなかったと。それからどうされたのですか?
営業の仕事に興味があったんですよ。土木の仕事をしている時にも「営業をやれ」と言われてやっていたのですが、土木業界の営業は好きになれなくて。本格的に営業の仕事をしてみたいなと思って、大手住宅メーカーに入って飛び込みのアパート営業をしました。
-アパート営業というと、土地の有効活用としてアパートを建てませんか?みたいな。
ええ、そうです。本格的だったというか、営業の醍醐味を知りましたね。頑張れば頑張るほど儲かるんだと(笑)。入って3カ月で日本一になれなかったら辞めるつもりだったんですが、実際に日本一にもなれたんです。給料も抜群に良かったですよね。営業成績の歩合でしたから。
-それはすごいですね。アパート営業は何年ぐらいされたのですか?
短かったですよ。というのもちょうどその頃、2人目の子どもに障がいがあることが分かったんです。それで、子どもから目を離すことができないという状況になって、このまま高収入の仕事を続けるか、それとも子どもの傍にいる時間が取れる仕事に変えるかという選択になって、後者を選びました。
-なんというか、波乱万丈ですね。それからですか、キクラゲに出会うのは?
そうですね。子どもの将来がどうなるんだろうと思って、障がいを持つ人が働いている社会福祉法人とかを回ってみたら、農業をやっているところが多かったんですよね。でも、作ってもあまり高くは売れないみたいなんです。それで、障がいのある人でも簡単に作れて、しかも高く売れる農業が何か出来ないかなと思って農業に興味を持ち始めて。そしてキクラゲに行きついたんですね。
キクラゲの生産について知りたいと思って生産農家を探したのですが、なかなか無いんですよ。何しろ国内で流通しているキクラゲの99%以上が輸入ですから。国内でほとんど作られていないわけです。知り合いのコンサルタントに頼んで探してもらって半年近く掛かったと思いますね。熊本と大分に生産者がいることが分かるまでに。
-キクラゲ自体はそんなに珍しくはないですが、生産者がそれほど少ないとは知りませんでした。
そうなんですよ。キクラゲの生産は手間が掛かる上に管理が難しいので採算が合わないんですね。中国産の安いキクラゲが大量に入ってきていますし。
-そんな中で、熊本と大分で見つかったと。
ええ。それで、熊本の生産者に会いに行ったのですが、これが運命的な出会いでして、たまたま知り合いの人だったんですよ!
-え、そうなんですか。すごいですね。
本当に運命の出会いでしたね。そこで基本的なことを学ぶことができました。そこは結構な量のキクラゲを生産されていたのですが、独自の販路を持たずに依頼された分だけを生産するという感じだったんですね。ただそれだと事業拡大が見込めませんから、もっと生産量を増やすにはどうしたらいいかを検討しました。
-今の仕組みが出来るきっかけになっているわけですね。
当社で現在、キクラゲの生産業者を募集しているのですが、当社が出荷した種で生産されたキクラゲを全て当社が買い取る制度も行っています。生産業者にもいろいろ特徴があって、キクラゲを作ることが得意な業者や、作るだけでなく売ることも得意な業者もいるので、当社が間に入ってそれらがうまく回るようにマッチングを行っているんです。この仕組みが出来上がってきたので、さらに規模を拡大していけば国産キクラゲの生産量をもっと増やせると思っています。
今後は、名古屋でこの菌床工場と同じ機能を持つ施設を稼働する予定です。今はこの菌床工場から出荷できる場所が名古屋ぐらいまでなんですね。運送に時間が掛かると種にストレスが掛かってダメになる率が高くなるので。関東の方から生産業者になりたいと言われても、出荷が出来ないためにお断りしていたのですが、名古屋から出荷できるようになれば東北の方でも生産できるようになります。
-なるほど。国内の生産量が一気に増えそうですね。ここまでお話を聞くと会社の立ち上げからとても順調に来ているような印象を受けましたが、何か苦労されたことはありますか?
いえいえ、最初から苦労の連続でしたよ。まず、当時はまだ農業をビジネスとして認めてもらえなかったので、銀行さんが全く融資してくれませんでしたからね。
-そうだったんですか。
今でこそ、アグリビジネスとか6次産業とか言って、補助金なんかもいろいろありますけど、当時はまだまだ・・・。銀行さんに融資の相談に行っても、隣の窓口のマイカーローンの相談には二つ返事なのに、こっちの農業の相談は門前払いみたいなもんでしたから。自分たちが持っているお金の中で何とかやりくりしてやっていくしかなかったんで、資金繰りは崖っぷちでしたね。
運良く「白いキクラゲ」の商品化に成功して、宇部市イノベーション大賞を受賞することが出来てからやっと安定してきましたけど、当時は本当に苦労しました。融資を断られた悔しさは今でも忘れられませんね。あの悔しさがあるから今があると思っています(笑)。
-そんな厳しいことがあったんですね。「白いキクラゲ」が出来たというのが会社にとって一つのターニングポイントだったのでしょうか?
そうですね。白いキクラゲは黒ばかりのキクラゲの中に、たまたま白くなろうとしているのがあったんですよ。
-それは意図的に作ったのではなくて偶然ですか?
はい、偶然です。でも昔は、白っぽいキクラゲは不良品で捨てていたんです。
-え、昔から白っぽいキクラゲが出来ることがあったんですか?
ええ。1万枚に1枚ぐらいの割合であるみたいですね。1シーズンに1回見るか見ないかぐらいですかね。
-へぇ、そうなんですね。それを改良されたのですか?
はい。というのも、営業でフレンチの店とかにキクラゲを売り込みに行くと、キクラゲは見た目がグロテスクで見栄えが悪いから使いづらいという意見が多かったんです。そもそも欧米ではキクラゲを「ユダの耳」と呼んでいて、食べる習慣がないばかりか不吉なものとして扱われているらしくて。
でも色が白なら見た目も良いし、基本的に無味無臭なのでどんな料理にも合わせることができるので使えると言われたので、だったら白いキクラゲを作ってやろうと改良に改良を重ねて白いキクラゲが出来るようになったんです。
-改良するのにどのくらいの時間を要したのですか?
約1年ぐらいかかりましたね。白いものを掛け合わせていくという地道な作業の繰り返しでした。白いキクラゲしか出来ない種が出来上がるまで相当苦労しましたね。
中国産のシロキクラゲとはまったく種類が違うので、今はこの白いキクラゲの方が良く売れている状況ですね。東京の大きなホテルでのコース料理に使われたりもしています。
-キクラゲの使われ方としてはどうですか?幅が広がってきていますか?
飲食店の方にお願いをして、キクラゲを使った料理のレシピを当社のfacebookにアップしていますので、ぜひ見てもらいたいですね。写真だけ載せるのではなくて作り方を紹介してもらっています。レシピの種類が増えていけば、まとめて本にしたいと思っています。
消費者向けの情報でいうと、10月中旬ごろに「畑っぴ」というアプリで当社のキクラゲが栽培出来るようになります。このアプリは、アプリ内で課金しながら時間をかけて野菜を育てて、出来上がった作物が実際に手元に届くというおもしろいアプリです。
-それはおもしろそうですね。実物の作物が届くのがいいですね。
そうですね。やはりまず食べてもらって今までの輸入のキクラゲとは全然違うということを知ってもらいたいですね。今は山口県内の学校給食でも当社のキクラゲを使用してもらっています。
-キクラゲは、食材以外の用途もあるのですか?
キクラゲは栄養価が高いので、製薬会社に依頼してシャンプーや化粧水、UVクリームなどの化粧品の試作品を開発してもらっています。化粧品の原材料として海外に展開したいと思っていろいろと動いているところですね。
-マーケットが大きいので期待できそうですね。今後の展開について聞かせてください。
まずはキクラゲを安定して供給できる体制を構築して、市場をもっと大きくしたいと思っています。このインフラが出来上がればもっとマイナーなキノコを市場に出して行くことも出来ますからね。
次は「鹿角霊芝(ろっかくれいし)」を手掛けようと研究開発をしているところです。漢方薬に使われるキノコなのですが、効果効能が高いので市場価値がとても高い商品です。これも国内ではほとんど生産されていません。漢方薬の原材料として海外展開もできると思っています。日本製は海外でも信頼されていますからね。
-なるほど。非常に興味深い話が聞けました。ありがとうございました。
■株式会社サンアロー
山口県宇部市芝中町11-46-1003
菌床工場:山口県宇部市大字山中字甲石700-11(宇部テクノパークJ区画)
TEL:0836-35-0035
代表者:代表取締役 近安裕司