宇部市渡辺翁記念会館(宇部市朝日町)の2階ロビーで3月6日、第一次修復作業が完了した「伝説のピアノ」の試し弾きが行われた。
「伝説のピアノ」は、1922(大正11)年に製造され、同館に展示されているスタインウェイ社製ピアノ。宇部発展の礎を築いた渡辺祐策らによって同年、「宇部市立新川尋常小学校」(現・新川小)に寄贈され、幾多の戦火をくぐり抜けてきたが、現在は損傷が激しい状態になっていた。
修復作業は、ウィーンに工房を構え歴史的なピアノを数多く修復してきたピアノ技術者・加藤嘉尚さんが10日間を掛けて行った。弦やハンマーといった部品が壊れていただけではなく、長い歴史の間にさまざまな修復が加えられていたピアノをオリジナルの状態に戻した。
加藤さんは「昨年11月に写真で下見していたが、現物を見ると思ったよりひどい状態になっていた。夜中まで作業するハードワークだったが、そのかいもあってとてもいい音色になった。多くの人の前で演奏されるのが楽しみ」と笑顔を見せる。
試し弾きを行ったのは、修繕にかかる費用の寄付・支援を呼び掛けるプロジェクト「伝説のピアノ復活計画」にこれまでも携わってきたピアニスト・碓井俊樹さんと、宇部市在住の音楽家田中祐樹さん。ジョージアの作曲家アザラシヴィリの「リリックメロディー」や、バッハの「ゴールドベルク変奏曲より『アリア』」など4曲を弾いた。
「伝説のピアノ」と同年代のピアノを愛用しているという碓井さんは「ちゃんと当時のピアノの音がよみがえっている。こうして手入れをしていくことで、日本で一番良い物になっていると思う。こういったもので子ども向けの演奏会などをしてみたい」と話す。
プロジェクトを主宰する「SAKI-DORIプロジェクト」代表の真部尚志さんは「この『伝説のピアノ』のように世界的なアーティストや技術者の方が関わるのは珍しいこと。次の世代に残していくためにも、多くの人に見てもらい、使ってもらうための持続性がある活動や企画が必要になる」と意欲を見せる。