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2018前半戦を2位で折り返したレノファ山口 三幸秀稔主将「本当にこんなサッカーできるのかな、から始まった」(前編)

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3年目のJ2リーグを戦うレノファ山口FCが、今季から就任した霜田正浩監督の下、快進撃を続けている。前半戦(第21節まで)を終えての戦績は11勝6分4敗。前半戦を2位で折り返した。

今季の主将としてチームをまとめ、ピッチ上では司令塔として活躍する三幸秀稔選手に、前半戦の振り返りや、絶大な信頼を寄せる霜田監督について、そして山口県で暮らす日々のこと、今後に向けての意気込みなどを聞いた。(インタビュアー=田辺久豊、写真・文=松原純)

今季は開幕から3連勝し、クラブ史上初の首位発進。「当初は自分たちの力をちょっと疑っているところもあった」

――リーグの前半戦が終わりました。霜田監督が掲げる「情熱的サッカー」がチームに浸透し、好調ですね。

自分たちのやりたいことにチャレンジし続けながら勝てているというのはいい方向に向かっていると思います。毎週対戦する相手が違う中で、練習でも毎日違うことをやってきて、チームがどんどん完成していく過程が感じられるし、それに結果がついてきているので、自分としてもすごく充実しています。

やりたいことはあっても結果が出ないから変えなきゃいけないっていうチームもいっぱいあると思うけど、自分たちは結果が出てる。それは、日々の練習が充実していて、いいトレーニングができてるからなんだろうなというのは、毎試合終わった後に感じます。

――開幕前に、今のような状況は想像していましたか?

今シーズンが始まる前に、シモさん(霜田監督)からやりたいサッカーを伝えられて、僕個人としては「本当にこんなサッカーできるのかな?」って、正直言うとそういうところからスタートで、自分のサッカー感の中にはなかったものだったので「え、そんなサッカーあるの?」って、結構衝撃的でしたね。

でも小野田でのミニキャンプ、熊本、タイでのキャンプを経て、少しずつそれが形になっていくのがわかりました。走らなきゃできないサッカーなので体力的にはキツイけど、やっていて楽しいし、これならいけるかもって。

――監督から聞いた時に「できるのかな」って疑問を感じたのはどのあたりですか?

シモさんが示した「プレーモデル」をやるには時間が必要だと思ったので、走る時間とかタイミングとかを合わせられるのかなって。でも、練習から難しいことに取り組む中で、出てくる問題点とか現象は予測済みで、それを打開するための案を出してくれる。シモさんは僕らの先をいってるんだなって感じます。僕たちがそこに追いつければ不可能なサッカーじゃないし、面白いサッカーができるなって今は思います。

――どのチームでも霜田監督のように「プレーモデル」を選手にわかりやすく示すものなのですか?

僕たちはメンタル面なども含めて、プレーモデルをいつもミーティングで確認しているんですけど、こんなにはっきりとは言わないと思いますね。「ボールをつないでいきたい」とか、「パスサッカーをしたい」とか、そういうざっくりした話をどこもしていると思うんですけど、僕たちはプレーモデルを言葉ではっきりと示してもらっています。なので、選手同士で話していても立ち返るところがあるっていうのがすごく大きいことなのかなって。明確なプレーモデルがあるから、僕たちはうまく問題を解決していけているように思います。

――レノファはJ2初年度の2016年に3位まで浮上したことがありました。三幸選手は当時を知る選手の一人ですが、その時と比べて今の状況はどうですか?

今季は開幕から3連勝して首位に立ちましたけど、僕はその時に「勢いだけなんじゃないかな」って自分たちの力をちょっと疑っていました。でも、負けているのに追いついたり、逆転したり、ロスタイムに追いつかれたり、そうやっていろんな試合を経験した上で今この順位にいるというのは、2年前とは少し違うのかなと感じる部分があります。

だけど、シモさんからは「これに満足したら必ず(順位は)落ちていく」と言われます。それから「相手の順位とか、自分たちが何試合負けなしとか、全く興味がない」って言われるんですよ。僕らは常にチャレンジャーとして戦っているけど、周りの人たちから「9戦負けなしですごいね」って言われたら嫌な気持ちにはならないし、無敗が続いたり、順位が上だったりすると、「上位だし、こんなに勢いがある」って少なからず気持ちが浮いてしまう時もあります。でも僕たちの気持ちが逸れそうなタイミングになると、必ずシモさんに釘を刺されて「ああ、自分はまだ甘いな」って気付かされます。だから今、みんなが同じ方向を向けているんでしょうね。

三幸選手が分析する、今季のレノファが好調な理由とは・・・?

――霜田監督は穏やかな方ですが、そういう厳しさも持ち合わせておられますし、すごくポジティブですよね。

僕にはない考え方をされる人だと思いますね。例えばサッカーでは「2-0」というスコアは怖いって言われていて、僕はついつい意識しちゃうんですけど、シモさんからは「そんなの意識しなくていい」って言われて。「だって2点差あるんだよ。1点取られても、あと1点取られなきゃ追いつかれないし、追いつかれても負けてないよね。何を焦る必要があるんだ」って。そんな風に言われました。

この間は、シモさんから「順位表確認してる人いる?」って聞かれて、僕は「確認してます!今2位です!」って手を挙げました。僕は数字とか結構好きで、今の勝点がこうで、他のチームとの差がこのくらいで・・・、とか情報は入れておきたいタイプなので。でもシモさんからは「順位表は見ていても見ていなくてもいい。ただ、上にいれば上にいるだけ、これからは相手のプレッシャーだけじゃないプレッシャーがかかってくるよ」と言われました。

今、3位や4位にいるチームは「2位の山口を叩けば自分たちが上にいける」と勝手にモチベーションを上げてくる。僕らは「ここで負けたら順位が落ちてっちゃう」「もし連敗したら・・・」ということがプレッシャーになる。この差はでかいと。だからこそ、「順位は気にするな。順位や勝点を気にするのは、残り1試合になった時だけでいい」って。そんな考え方はこれまでにしたことがありませんでした。

レノファの指揮を執る霜田監督

――三幸選手もそうですが、今は選手全員が霜田監督を信頼して、充実した時間を過ごしているように見えます。

そうですね。ここまではある程度スタメンが一緒だったかもしれませんけど、これだけ走るサッカーをやっている中で、新しい選手がいつ起用されても全くおかしくない状況でした。チーム内での競争が激しいことが、レノファがいい方向に進んでいたり、いい結果を出せていたりすることにつながっているのかなと思います。

――今季から三幸選手はキャプテンを任されていますが、何か心掛けてきたことはありますか?

僕としてはそんなにキャプテンという立場は意識していません。ただ、困った時に話の中心にいられるようなキャプテンにはなりたいと思っていて、そのためにいろんな選手とコミュニケーションを取ることは多くなりました。去年は同い年で仲がいい小野瀬康介や前貴之とサッカーの話をしながら温泉に入ったり、ご飯を食べたりしていたけど、今は(清永)丈瑠や(池上)丈二といった年下の選手ともよく話すし、年上の選手とも一歩踏み込んだ話をするようになりましたね。

――練習中もいろいろな選手と話し込んでいる姿を見ますね。そのあたりは監督からも評価されているんじゃないですか?

どうなんですかね。なんか「ミユ、頼むぞー」「はい!頑張ります!」みたいな(笑)。でも、信頼してもらっていると感じますし、サッカーの話とか戦術的な話もたくさんしてもらって、僕がうまく立ち回れるようなサポートをしてもらっています。

練習後、真剣な表情で話し込む三幸選手(写真右)と清永丈瑠選手

――三幸選手自身は、今季インサイドハーフのポジションとして起用されて、佐藤健太郎選手の負傷以降はアンカーで起用されています。ここまでのご自身のプレーを振り返っていかがですか?

水戸戦(第4節)の途中からアンカーになって、どうやってやればチームがうまく回るのか、最初は悩みながら・・・。でも、僕はどちらかというとチャレンジ精神が強いので、勢いでうまくいっちゃってた部分もありましたね。

負けてしまった水戸戦と福岡戦(第9節)は何もかもうまくいかなくて、その2試合ですごく考えさせられました。何がうまくいかないのかがわからなくて。全然ダメな試合だったけど、その試合の映像を何回も見直しました。どこからタックルを受けているんだろう、とか、なんでこうなったんだろう、とか。そうやって見ていたら、ここがおかしいんじゃないかという部分を見つけることができて、今に至っています。

今は試合中に修正が利くようになってきたし、もしインサイドハーフで出たとしても相手のアンカーが嫌がることは逆の発想でわかるようになった。そういう意味でも僕自身のサッカーの幅が広がったように思います。

――これまでのサッカー経験でアンカーとしてプレーすることはあまりなかったのですか?

そうですね。中学の時も、高校の時も、常に前線へスルーパスが出せるポジションにいました。レノファに入った最初の年(2016年)は、僕が今より一つ前に位置するトップ下にいて、庄司(悦大)くん(現ベガルタ仙台)に相手を引きつけてもらって僕がフリーな状態でボールをもらったり、そこに福満(隆貴)くん(現セレッソ大阪)も絡みながら、僕自身も自由にやるようなタイプでしたね。

今は(インサイドハーフの)丈二がすごく良いところにボールを受けに来てくれたり、良いアクセントになったりしていると思うんですけど、そういう選手にボールをつけるということは、今まであまり考えたことがありませんでした。どっちかというと「寄こせよ」と思っちゃうタイプでしたから(笑)。それは自分の中で、また新しい考え方ができるようになった部分だなと思います。

――アンカーとしてお手本にしている選手はいるんですか?

誰というよりも攻撃的なチームでプレーしているアンカーは目に止まるようになりました。W杯を見る時も「あのアンカーすごいな」「あの選手がいるから強力なFWが自由にできるんだ」って。目につくのってスター選手が前でボールを持った瞬間だったり、長い距離を走ってる選手だったりすると思うんですけど、長い距離を走らせるためにアンカーがどうプレーをしているのか、とかそういう視点で見るようになりましたね。僕もそういうプレーがしたいし、究極を言えば、僕の位置から下がらずにボールを奪いたいという思いがあります。

「中村俊輔選手も中田英寿選手も、柴崎岳選手もそういうことを乗り越えてきた」

――前節の横浜FC戦(第21節)は、相手からかなり厳しくマークされていましたね。

そうですね。シモさんからは「いずれ必ずマークが厳しく来ると思っていてくれ」と言われていました。それが成長につながるし、中村俊輔選手も中田英寿選手も、今回のW杯に出場した柴崎岳選手もそういうことを乗り越えて、打開してあそこまでいったんだ、と。

マークにつかれることは光栄なことだなとも思っています。相手が僕に一人つけば、他に空いてくる選手がいっぱいいる。僕が成長できればチームにとってかなりプラスになると思う。でも、タックルされると結構痛いですけどね。うまくやっていければと思います。

――これから個人的に伸ばしていきたい、変化させていきたいという部分はありますか。

今はシュートが多く打てているのでそこは変えずに、常にシュートが多く打てるチームでありたいですね。チャンスの数をもっと増やしたいので、自分のラインで相手の攻撃を止めることと、自分のラインよりも前でボールを回すということにチャレンジし続けられるポジションに常に立っていたい。そうすれば自ずとチャンスもシュートも増えてくると思います。そのためにはいろんな要素が必要だと思うんですけど、そんなゲーム展開にしたいし、ロングボールを蹴って陣地を取るんじゃなくて、つないで陣地を取りたいと思っています。

三幸選手(写真中央)は現在25歳。初々しい後輩や、落ち着いたベテラン勢に囲まれながら、キャプテンとして奮闘中だ。

>>前編は、前半戦のレノファの戦いぶりや霜田監督とのエピソードなどをお届けしました。後編では、山口県で暮らして3年目になる三幸選手が感じる地域の魅力や、サポーターに感じる思いなどをお届けします。お楽しみに!

三幸秀稔-MIYUKI HIDETOSHI-

1993年5月23日生まれ。千葉県出身のサッカー選手で、2016年からレノファ山口FCに在籍。背番号は29番。今季から主将を務め、開幕から全試合フル出場を続けている。視野が広く、ピッチを幅広く使った攻撃的なサッカーを展開し、アンカーの位置では落ち着いた守備も見せている。人当たりがよく、ファンサービスもフレンドリー。

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