特集/コラム

【エリア特集】2007-07-19

山口流 オーガニックのススメ
専門カフェ、レストランからのメッセージ発信

 健康志向の波に乗り、食材に限らず、衣類、住宅、化粧品とあらゆる製品のキーワードになった「オーガニック」。直訳すると「有機」の意で「農薬や化学合成肥料を使わずに育てられた農産物」が一般的定義だが、そもそもオーガニックとは、環境配慮に基づいて見直された、昔ながらの自然農法を指す。化学薬剤を一切使わず環境を破壊しないことが、ひいては健康や安全につながる。そんなオーガニックの“結果”がヘルスコンシャスな人たちのハートを射止め、世界的ブームは巻き起こった。本州西端・山口でも、「食」を中心にオーガニックをあえて“選ぶ”人は確実に増えつつある。市場規模の小さな街にあって、外食産業からオーガニックやマクロビオティック(日本の伝統食をベースにした「玄米菜食」の食事法)を発信する専門店には、男女年齢を問わず客足が絶えない。

そこで採れた有機野菜を、その日のうちにいただける幸せ

なないろのんた 今年3月、山口・仁保下郷の日本果実工業そばに、民家に隣接した隠れ家的な自然食レストラン・カフェ「オーガニックキッチン  なないろのんた」が開店した。母親と二人で店を営む松尾美子さん(28)は、沖縄の八重山料理の店で5年間、北九州の自然食の店で1年半修行を積み、1年前に帰郷。自宅を増改築して念願の店をオープンさせた。食事メニューは今のところ、菜食中心のランチ(要予約)のみだが、昼時は常に満席状態の繁盛ぶりだ。「父が無農薬で栽培した自家野菜と、仁保で育った安全な食材を調理してお出ししています。お品書きのメニューに必要な材料をそろえるのではなく、今ある食材に合わせて作るメニューを決めているので、同じ料理がいつも食べられるとは限りませんが、その日に採れた野菜をその日にいただくことが至ってシンプルで一番おいしい、ぜいたくな食べ方なのです」。見渡す限りに田畑の広がる仁保地区は、減農薬にもいち早く取り組んできた農業振興地域。高校時代に市中心部から仁保へ越してきた松尾さんは、初めて口にした仁保の野菜のおいしさを、今でも鮮明に思い出すという。しかし、日本の農業衰退の波は、自然豊かな地元にも確実に押し寄せている。「農家の高齢化も深刻で、この安全でおいしい野菜がいつまで食べ続けられるのだろうかと考えてしまいます。私は農業はしていないけれど、四季のリズムに旬の野菜や山菜で作られるメニュー合った旬の食材の良さを料理に表現することで、皆さんの意識が変わることを願っています。少々値段は高くても安全で確かな食材を求める消費者が増えれば、農家だって昔ながらの自然農法で、人にも土壌にも良い作物を栽培できるようになります。都会ではとても手が出ないような価格で売られているオーガニックフードが、山口ではこんなに身近に手に入るのですから、このすばらしい環境に感謝しなくては」

雑穀と伝統製法の調味料で日本の食文化を発信

人気のにんじんフライ 山口・平井の山大通りにある、厳選素材と雑穀レストラン&カフェ「月光荘」は、雑穀エキスパートの資格も持つ店主・田中和久さん(35)の思い、そのものともいえる店。出される料理はどれも、日本で古代から食されてきたヒエやアワ、キビなどの雑穀と野菜を、無添加調味料を使って丁寧に調理した変わり種ばかりだ。ニンジンを丸ごと揚げてエビフライに見立てた「にんじんフライ」など、料理を目にした瞬間の衝撃、甘くやさしい素材の味わいに、来店者たちは二度、三度と驚かされる。自然食にありがちな、食後の物足りなさも感じない。「オーガニック料理に初めて出会った時に私が受けたあの感動を、ここに来て下さる人にも与えられたら。日本古来の穀物たち、農家の方が一所懸命に育てた食材、手間暇かけて作られた本物の調味料を、真心込めて調理し、大地の恵みの素晴らしさを多くの人に知らせたいのです」。田中さんは、出張族だったサラリーマン時代に通い詰めた、三重県亀山市の本格オーガニ「高きび入り豆腐ハンバーグ」がメーンのランチックレストラン「月の庭」に感銘を受け、雑穀フードの魅力を伝えたいと、脱サラ後に調理師専門学校で料理の基礎を学び、昨年10月に同店をオープン。食に対する一途な姿勢からは、どこか使命感にも似た情熱が伝わってくる。「偽物が氾濫している世の中で、本物=良い物を意識して選び、使って欲しい。目先の安さや手軽さに踊らされ、結果的に健康を害したり、環境に負荷をかけては元も子もないでしょう。それに、脈々と受け継がれてきた伝統を守り、汗を流してまじめに取り組んでいる生産者を大事にしたい。日本の食料自給率の低さを考えてもゾッとします。このままでは日本人の食文化は衰える一方です」

オーガニックなライフスタイルを体感できるホテル

1,800円のお昼のコース「藍」 美しい日本海を眺める山口・長門市の、小さな海辺町にたたずむオーガニックプチホテル「YUIの家」は、土地ならではの食材をふんだんに使った「オーガニック懐石」やマクロビオティックの料理を提供する、日本でも数少ない宿泊施設。1987年にオーナー企業の総合建設会社・シマダ(山口市前町)の保養施設として誕生し、温泉が湧き出た90年にホテル開業。環境配慮の観点から4年前にリニューアルを行い、本格ビオホテルへの新たな道を歩み始めた。同社の嶋田惟さん(25)は「健康的で心身ともにリラックスした時間を過ごせる場にしたいとの思いで、建物、空間、リネン、温泉、食事とあらゆる角度から可能な限り、人と地球にやさしい天然素材を取り入れています。滞在される方はもとより、レストラン利用のお客様にもオーガニックを意識したライフスタイルを提案できればと考えています」と語る。素材本来の味が際だつ、気品に満ちたオーガニック米なすの変わり田楽懐石は、長門で水揚げされる天然魚介と、車で15分という近距離の契約農家で育った無農薬・減農薬野菜、県内産無農薬米、無添加・伝統製法の国産調味料を絶妙なバランスで調理した傑作。「オーガニックの魅力をいかに引き出し、独自の味を創り上げるか。素材が特異なだけに、調理法を確立するのには1年以上かかりました」と苦労を振り返るベテラン料理長の料理は、一品一品がやさしく繊細で、心にまで栄養を与えてくれる。「ビオホテルへの憧れとこだわりの強さは確かですが、お客様にはあまり難しく考えずにオーガニックにふれていただきたい。良いものは語らずとも感性が感じ取ってくれます。食事に関しても、とにかくおいしいと言っていただけることが一番です」という同ホテルの自然体な姿勢が、幅広い層に受け入れられる秘訣なのかもし良い土壌で育つ有機野菜は元気れない。また、ここで使われる食材のほとんどは長門産のもの。「地産地消」は安心・安全というだけでなく、産地が近ければ近いほど輸送にかかる無駄なエネルギーを削減でき、環境を汚すこともない。さらには地域内消費によって、生産者と消費者の「互いに支え、支えられる」良い循環が生まれ、地域力の土台も保ってくれる。
 海外ではヨーロッパを中心に、オーガニックを選ぶことが持続可能な地球環境を守ることであり、環境保護につながると捉えられている。人間の都合で無造作に大量生産される一般商品よりも高い“プラスα”の金額部分を、自らの健康や環境への投資と考えられるようになれば、オーガニックに限らずさまざまな場面で、自身の価値観が変わってくるかもしれない。

YUIの家

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