特集/コラム
【連載】アートプロジェクト「HEART2007」の鼓動[1]
美術館が街へ飛び出した! 生活の中にアートがある
芸術文化の拠点施設・山口県立美術館が今年、従来のミュージアムの枠を越えて館外へと飛び出し、県都・山口市の中心市街地にアートを仕掛ける。8月18日から9月9日まで、22日間にわたって展開される県立美術館特別企画「HEART2007」は、“ものづくり”と、そこに生まれるコミュニケーションの楽しさ、大切さを街の心臓部でリアルに伝えようとする、同館史上初のプロジェクト。土地に蓄積された伝統や歴史、人々の日常の営みと芸術、アーティストを直に交わらせることで、新たな地域文化を創り、育て、根付かせようという挑戦的な試みだ。商店街、商工会議所、大学、NPO法人、自治体とも手を携えたこの大作戦は、街にどのような足跡を刻み、未来へとつながっていくのか。心と心、人と街とをアートで結びつけていくユニークな取り組み「HEART」を追っていく。
プレイベントで市内の親子が“豆腐畳”の道を試作
7月21日、米屋町商店街の山口銀行米屋町出張所前に、市内に住む親子約15人が集まった。8月18日にスタートする「HAEART」を控えてのプレイベント「ROUTE102(ルートトーフ)−豆腐を食べて、小径(こみち)をつくろう」の始まりだ。そばの空き地に並べられた大小さまざまの豆腐パック。粉に水を加えながら、モルタル(セメント)を子どもたちはせっせと練っていく。練り上げたモルタルを次々と空きパックへ流し込んでいく子どもたちの表情には、日常生活ではまず触れることのない素材への好奇な眼差しがキラキラと輝いた。モルタルが固まるには時間を要するので、当日は美術館スタッフがあらかじめ用意していた500個の“豆腐ブロック”を手に抱え、銀行の建物に沿って細長く敷き詰めていった。豆腐パック柄をした個性的なブロックは、数を増すごとに少しずつ“道”を形成していく。「お豆腐のパックって、きれいな模様をしてる」(秋貞和さん・9歳)、「ちょっと重い
けど、色んなのがあって並べるのがおもしろい」(藤井舞さん・同)など、参加者はそれぞれに新たな発見や発想を得た様子。この日はあくまでも練習ということで、イベント終了後ブロックは撤去されたが、子どもたちは記念にもらった豆腐ブロックに名前を書き込み、大事そうに持ち帰っていた。
日常の何気ない風景の中に潜むアートの発見
「HEART」の1プロジェクトとして、8月4日、11日、18日、9月1日の土曜日に計4回で実施される「ROUTE102」は、豆腐パック1万個を集めて“豆腐ブロック”をつくり、同銀行とみずほ銀行山口支店との間を一の坂川へ通り抜ける幅1メートル、長さ50メートルの生活道を、石畳ならぬ“豆腐畳”に修景。さらに両脇の塀を白く塗装し、そこに浮かび上がる“いつもの道なのにいつもと違う”風景を観察してみようというワークショップだ。参加者と一緒になって作業を行う講師、山口・小鯖在住の美術家・山根秀信氏は第50回山口県美術展覧会(県美展)の大賞作家で、今回の企画は第52回県美展で優秀賞に輝いた「小径計画」をベ
ースに発案したという。「普段何気なく目にしているものの中にも美しい造形が潜んでいることに気付いて欲しい。豆腐パックを素材にした理由もそこにある。自分たちの力で街の景観を変えられるという実感を味わってもらえれば」。プレイベントの日、お世辞にも美しいとは言えなかった路地はきれいに洗浄された。それだけでも、心なしか見慣れた景色が違って見える。「発見が感動につながり、そこから新しい世界観が生まれてくる」と話す山口・宮野在住のアーティスト・秋貞勇氏の制作協力によって、薄汚れたブロック塀は近く、漆喰調の白壁に生まれ変わる。なお、ワークショップの本番に向け、美術館では使用済み豆腐パックを収集中。美術館ほか米屋町商店街などに回収ボックスを設置して市民の協力を呼びかけている。
「HEART」の中にある「ART」を感じるプロジェクト
昨秋盛大に開催された国民文化祭の流れをくむ「第1回山口県総合芸術文化祭・総合フェスティバル」の美術館特別企画と銘打たれた「HEART」は、これまで県教委に属していた県立美術館が今年度知事部局に移管されたのを機に、文化活動を通じたまちづくりの拠点になろうと初めて企画。だが、同時にこのプロジェクトは、61年の歴史を誇る県美展の新たなメッセージ発信=美術館の主張という側面も併せ持つ。「つくる・みる・ささえる」の創造的調和をコンセプトにした県美展は、創作の枠を決め付けないユニークな公募展として全国にも知られているが、あくまでもそれはミュージアムの中での話。集客力の高い全国規模の展覧会にしても、それらの芸術が地域に根付いたのかといえば、こちらもやはり同じことが言える。作家を育成し、観る人を育てても、美術を支える意欲や姿勢がその街になければ、地域文化を育むことは難しいのだ。そこでどうするかと考えた末に出された一つの結論、それが、美術館、アーティスト、地域住民が一つになり、街ぐるみで進める芸術プロジェクト「HEART」だった。街のあちらこちらで繰り広げられる創作活動や美術作品、作家といった「アート」に触れることが、人と人・人と街のコミュニケーションを生み、そこで過ごした楽しい時間が心(ハート)に刻まれ、街が活性化していくという新発想。主催のミュージアム・タウン・ヤマグチ2007実行委員会には、美術館、山口市商店街連合会、山口商工会議所、山口市、山口県、C・S赤れんが指定管理者・NPO法人こどもステーション山口といった関係機関のほか、今春新設されたばかりの県立大学国際文化学部文化創造学科も参加して、さまざまな視点から多角的にプランを練っている。
山口県の“へそ”がアートに染まる22日間
「HEART」の開催エリアは、美術館、一の坂川、中心商店街を含んだ約500メートル四方の市街地。8月23日に開幕する「第61回山口県美術展覧会」を核として、「展」「商」「遊」「録」「映」の5つの柱でプロジェクトを進めていく。「展」は県美展で、展示だけでなくさまざまなワークショップやイベントを実施。「商」は美術館ロビーをアートづくしの市場に見立てるショップ企画「アート・マート」で、県美展出身作家の作品、ミュージアムグッズ、美術図書や絵本の展示販売ブース、カフェスペースを設ける。また、期間中は商店街にも、空き店舗を利用した美術館ギャラリー&ショップ「HEART・SPOT」をオープン。8月25日と26日には美術館前庭に作家たちが集結するフリーマーケットスタイルの「アート・マート・スペシャル」も出現させる。「遊」は、美術館と中心商店街を結ぶ一の坂川エリアをアートな散歩道に変身させるプラン「アート・ルート」。「ROUTE102」をはじめ、C・S赤れんが前から千歳橋までをひもで辿って実物大の名所図絵を作る「ひもで、せんを、むすぶ。」、農業をテーマにオブジェや農作業衣ファッションを提案する「アグリ・アート・ツーリズム」、インスタレーション作品の上映などを展開していく。「録」は美術館に世界のアートカタログを一堂に集めた「カタログ・コ
レクション」で、ものづくりの記録=カタログと捉えた企画。そして「映」は、美術館スタッフも大絶賛の映画「こま撮りえいが こまねこ」の上映会で、1コマずつ人形を動かして、照明・セット・カメラポジションもその都度変えて撮影していくアニメーション手法「コマ撮り」の舞台装置の展示、原作・監督・キャラクターデザインの合田経郎氏によるトークイベント、ワークショップも行う。以上、期間中に開催されるワークショップや参加型イベントは全12種類、22回。これだけのアートが街中でうごめく22日間に、どれか一つでも自分の目で見て、感じる機会を作ってみて欲しい。アートに触れることで、あなたのハートにも何かの変化が起きるかもしれない。
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