特集/コラム
山口とデンマークの架け橋に
北欧の価値観で新風を吹き込む
物にあふれる便利な現代、豊かであるにもかかわらず人々はせわしなく時間に追われ、何か大切なものを失いつつあるように思えて仕方ない。そんな日本が、さまざまな社会問題の解決のためにお手本にしようとしているのが北欧の国々。「世界一幸福な国」と評されるデンマークに5年間、単身で暮らし、現在山口デンマーク協会の事務局責任者を務める、北欧雑貨店「ベルフルール」(山口市小郡上郷、TEL083-972-4556)の店長・藤井圭一郎さん(23)に、自身の経験や橋渡し役としての思いを聞いた。
―― 藤井さんは中学、高校とデンマークに住んでおられたとか。
藤井 中学2年の時、単身でデンマークへ渡りました。動機はとても単純。芝生の上でサッカーをしたかったから。父がデンマークから建築部材などを輸入している縁もあり、全寮制の東海大学附属デンマーク校の中等部に編入できたのです。それから高等部を卒業するまでの5年間、首都コペンハーゲンから車で約1時間半離れた、プレスト市という海に面したのどかな町で暮らしました。デンマークの学校はわりと自由で、制服もありませんでしたし、髪をどんな色に染めても注意されない。部活は3つまで掛け持ちができ、私はサッカー部と柔道部に所属していました。もちろん、デンマーク語と英語での授業もありました。言葉も文化も習慣も、何もかもが異なる環境でしたが、比較的慣れるのは早かったです。芝生のグラウンドでプレーするという念願も叶いましたし、毎日が充実していましたね。ただし、ベッドメーキングやゴミ出しなどは毎朝チェックされ、自由な中にもけじめが大事だということを寮生活で学んだ気がします。
―― 実際にデンマークとはどのような国なのですか?
藤井 デンマーク人の生活はとてものんびりとしています。国民性は非常に温厚で、愛国心が強い。また、スウェーデンに並ぶ福祉先進国なのはご周知の通りですが、本当にすばらしい社会システムを持つ国だと思いました。例えば、大学を含め教育費は無料、医療も無料で受けられ、福祉や年金といった社会保障制度がとてもしっかりとしています。その分、消費税にあたる付加価値税25%、平均所得税59%と、世界でも有数の高税率なのですが、これだけの税負担にもかかわらず、不満を漏らす国民はほとんどいません。支払った税金の恩恵は目に見える形で返ってきますから。税金は「取られる」というよりも「預ける」といった感覚ですね。それが、デンマーク人の国民性や暮らしぶりに現れているのではないでしょうか。
―― 日本とは全く違うのですね。
私が住んでいた町には、コンビニもカラオケもありませんでした。お店の営業時間もたいてい10時−17時で、16時にはもう閉店の支度を始める。基本的に土日は休みですし。欧州の中でもデンマークは徹底しています。でも、本来はそれが当たり前だと思います。今の日本は過剰サービスなのではないでしょうか。確かに至れり尽くせりで、遊びやレジャーも充実していますが、どこまでいっても一人になれない。一人でじっくり物事を考えたり、行動したり、そういう時間を失っているような気がします。土日も誰彼働いて、忙しくして、それって全然豊かな生活だとは思わない。
―― 帰国後の日本での生活はいかがでしたか?
藤井 高校卒業後に帰国し、東海大に進学しました。山口で生まれ育ち、デンマークの田舎に5年。神奈川の大学に進んだ時には、まるで逆輸入の日本人って感じでした。都会暮らしは何もかもが新鮮で、物や便利さに溢れ、当時の私にはとても刺激的でしたが、2年で嫌気が差しましたね。すべてが競争の世界で、闘争心むき出しというか。疲れる環境でした。そこで大学を中退し、イギリス・オックスフォードに約1年間語学留学して山口に帰郷。語学や留学経験を生かせるということで、家業の株式会社ライフに就職したというわけです。
―― 山口デンマーク協会ではどのような活動をされているのでしょう?
藤井 まだ短い人生ですが、その約4分の1を過ごしたデンマークは第二の母国。デンマークと日本、互いに優れた点を吸収し、皆さんの生活にプラスになる情報や正しい知識をお伝えすることが自分の使命だと考えています。具体的には、デンマークからの客人の接待、通訳、日本とデンマークとの交流支援や情報提供などを事務局として行っています。特に、デンマークの生活スタイルや物に対するすばらしい価値観を、より多くの人に伝えていきたいですね。
―― 日本が見習うべき優れた点とは?
藤井 デンマークはシンプルモダンの発祥の地。豊かだけど質素というか、まず必要以上の物は持たない。そして、本当に良い物を大切に、長く使うというスタイル。“使い捨て”や“量産”を必要としないのです。私が高校の卒論で発表したテーマは「デンマークの家」でした。北欧の家づくりは、人と環境に優しい、百年住める住宅が基本です。建材は自然素材でできていますし、外断熱に非常に優れていて、暖房やクーラーが要らないほど。日本では住宅という大事な資産でさえ、自動車や家電製品のような耐久消費財に近い扱いを受けているように思います。ものづくりに関しても、日本は大変すぐれた技術を持っていますが、何か偏りがちな気がします。例えばマッサージチェアの場合、性能はピカイチ、でもデザインの方はイマイチですよね。部屋に置いてもちょっと絵にならない。機能を追求することはしても、デザインには配慮が足りないのです。北欧の製品は、機能性とデザインを兼ね備えた、いつまでも愛せる=永く使い続けられるものが多いと思います。そこには、常に使う人を中心に考えるものづくりの姿勢を感じるのです。
―― 今後どのような活動を展開したいとお考えですか?
正直まだ、自分に何ができるかはわかりませんが、今の仕事や協会の活動を基盤に、少しでも社会に役立つ事業を考えていきたい。デンマークでの経験や学びをさらに生かせる方法を、これからじっくりと追求していきます。流行廃りに左右されることなく、何より大事な”本質”を見失わないように。
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