特集/コラム
【連載】アートプロジェクト「HEART2007」の鼓動[4]
22日作戦が落としていったART&HEART
ものづくりとコミュニケーションをテーマに、山口市中心市街地で22日間にわたって繰り広げられたアートプロジェクト「HEART2007」。最終日となった9月9日は、商店街アーケードに巨大な野菜市場が出現。農業とアート作品、ニューファッションのコラボレーション空間が、多くのギャラリーや買い物客らをのみ込んだ。フィナーレを迎えた数々のプロジェクトたちは、街をどう刺激し、私たちに何を残していったのか。
HEART最終日、商店街は巨大な野菜市場と化した
午前10時、商店街アーケードに歩行者専用の交通規制が張られるやいなや、段ボール素材の特設ブース40基が一斉に立ち並んだ。次々にディスプレーされるていくのは、県内農家で育ったみずみずしい朝どり野菜、市民参加のワークショップで制作された野菜オブジェ、県立大学学生が提案するニュータイプの農作業着「アグリ・ファッション」などなど、「農」にかかわる素材の数々。ひと通りの展示が終わると、同大院生でファッションデザイナーの片山涼子さんデザイン、ブルーウェイ製造のスタイリッシュなもんぺ「もんぺヌーヴォー」や野菜をモチーフにした「アグリTシャツ」、ブースごとに積み上げられた新鮮野菜のほか県産牛
乳でできたジェラートなどの販売がスタートした。「おいしい有機野菜はいかがですか」と、まだまばらな人通りの中、通行人に元気良く声をかける同大学生やスタッフたち。市民活動グループ・Yanの呼びかけで催しを盛り上げようと特別出演した、アフリカ太鼓ジェンベを奏でるグループ「Folliba(フォリバ)」のパワフルな演奏も手伝って、会場は次第に活気づいていった。
ものづくりと生活、アートは共生するもの
アーケード天井には、市内保育園児たちの貼り絵作品が吊され、道行く人々の目線には色とりどりの野菜、個性的な展示ファッション。「今日は何事?」「きれいな野菜」「試着できますか?」――。ビタミンカラーに彩られた中心商店街に、何気なく街を訪れた人々も興味津々の反応。とれたて野菜の感触や香り、鮮やかな色つや、同じブースに肩を並べる野菜オブジェと“ナマモノ”の対比・・・。見て触れて楽しむ人あり、買った野菜の食べ方を考え
つつ帰っていく人あり、アートな野菜市場に感じるおもしろ味はそれぞれに違っていた。この催し「アグリ・アート・ツーリズム」の総合ディレクターを務めた、実行委員会メンバーでもある同大国際文化学部文化創造学科の水谷由美子教授は「学生たちが自主的にプロジェクトへ関わり、農業というものづくりの現場や、地域社会と交わることで、多角度からたくさんの刺激を受けてくれたことが何よりうれしい。今回のHEARTはプロジェクトのスタートラインと捉えている。今後はさらに具体的に、より広範囲に、アートと生活文化の結びつきを提案し、発信していきたい」と語る。「農を支える人たちのものづくりの心がどれだけ消費者に伝わったかは分からないけれど、個人的にはたくさんの人とふれあえて良かったし、視野が広がったと思う。こんな形のアートもあったんですね」(同学科1年、柚野佑佳さん)
”こまちゃん”が教えてくれたものづくりの素晴らしさ
9日の最終上映、エンドロールの間じゅう拍手が鳴りやまなかった「こま撮りえいが こまねこ」。人形を少し動かしては撮り、少し動かしては撮りと、1コマずつていねいに撮影した映像をつないで動画にするという、気の遠くなるような手法で作られた映画だが、まるで生きているかのように表情豊かな人形たちそして主人公・こまちゃんにしっかりと投影されたものづくりにかける心は、押し売りなどではなく、とても自然に、子どもから大人までも魅了した。3週にわたる上映期間中の来観者数は1300人以上。感想や応援などのメッセージも多数寄せられたという。「こまちゃんもっと見たい」とせがまれ、「そうね。こまちゃんがまた新しいお人形を作れるように応援しようね」となだめる親子の姿、会場の片隅でとても印象的だった。
自分たちの手づくり作品が街の景観を変える
「ROUTE102−豆腐を食べて、小径をつくろう」と題して7月に始まったアートな道づくりも、9月2日に無事完成を迎えた。灼熱の太陽に照らされながらも、市民、アーティスト、スタッフが共に汗を流し、コツコツと形にしていった手づくりの道。商店街から一の坂川へと抜ける薄汚れた路地の面影は、もう、どこにもない。真っ白な壁に挟まれ、模様までも浮かび上がって見える、豆腐パック柄のブロック畳。「ここは私が組んだの」「ぼくが固めたところだよ」。ブロックを並べ、砂を詰めていった手の感触を思い出しながら、自らがこしらえた道を踏みしめる参加者の喜びはひとしおだ。「手づくり感たっぷりの、味のある道に仕上がった。近づいてよく見ると、豆腐パックに刻まれているプラスチックマークまで模様になっていたりして、歩きながら二度、三度と楽しめる。美術と社会生活との交わりが生んだ一つの結果」(講師・山根秀信氏)。「ペンキの吹きつけ作業をしていても、幅1メートルの狭い路地、すれ違い様には皆がひと声かけて通り抜けていく。この小径から、ちょっとしたコミュニケーションが簡単に発生するおもしろさを感じた」(制作協力者・秋貞勇氏)
アート作品は人をつなぎ、コミュニケーションを生む
その、豆腐畳の小径のすぐそば、千歳橋付近の一の坂川に架かる橋が、ファイナルイベント「一の坂川景観プロジェクト『ブリッジング・ランドスケープ』−景観に橋をかける」の会場となった。街が闇に包まれた午後7時、一の坂川上に設置された3つの大型スクリーンに、映像がうごめきはじめた。神秘的なサウンドをバックに、流れるように次々と映し出されていくのは、ごく身近にある山口の風景。暗闇に浮かんでは変化していくまち並み、川の水面に
映る光、街で採録された環境音、川のせせらぎ…。ぼんやり眺めていると、過去と未来、歴史文化と日常、さまざまな要素がシンクロして不思議な空間へと誘われていく。周辺住民、勤め帰りの人、家族連れ、若いカップル、老夫婦、橋上に座りこむ人、夜の散歩を楽しむ人、井戸端会議に花を咲かせる人・・・。空間に引き寄せられるように、 気づけばさまざまな人たちがそこに集っていた。
HEARTで流れた汗が人々の心を揺さぶり、街に種を落とす
「日常空間の中にある造形美にふと気づく瞬間、ものづくりを通して得た感動、それらがまさに美術体験であり、新しい地域文化を形成するきっかけにも成りうる。そして、美術作品を一つの媒介とした、つくり手と観る人とのコミュニケーションの楽しさ、そこに生まれる刺激は、このプロジェクトによってわずかながらも具現化された」と同美術館。だが、何より市民の心に焼き付いたのは、美術館職員、実行委員会スタッフ、参加アーティスト、ボランティアたちの汗と情熱、真摯な姿だったのではなかろうか。街に飛び出した美術館があちらこちらに落としていって種は、いつか芽を出し、花を咲かせて、山口の街にすてきな彩りを添えてくれるはずだ。
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